外国人が熱狂するクールな田舎の作り方 (新潮新書)
2018年1月20日発行 著者:株式会社美ら地球(ちゅらぼし)代表取締役 山田拓
発売されて真っ先に読むべき本だった。気づけば発刊されてから丸1年が経過していたが、美ら地球の10年間の軌跡は色あせるどころかさらに輝きを増して、私の知恵になりました。とても勉強になったので感想などご紹介します。
「インバウンド事業で成功するために、どういう道を辿ってきたのだろう?」
「地方の可能性ってなんだろう?」
「周りに有名観光地が溢れている中でどう勝負すればいいか?」
「田舎暮らしってどんな感じ?実際住んでみると…」
インバウンド事業に限らず、観光業に携わる人ならば、誰もが持つ疑問にどう向かいあってきたか、気になる部分も包み隠さず話していました。
1.基本情報
岐阜県飛騨古川でコンサルティング&旅行業を運営している株式会社 美ら地球
著者の山田氏はもともとコンサルティング会社に勤めていたようですが、会社勤務の後、525日間(約1年半)に渡り世界中を旅していたとのこと。その時見聞き体験した、様々なエコツアー、外から見て初めてわかる日本の素晴らしさ、海外の人のライフスタイル。当時の体験はかけがえのないもので、美ら地球の運営や、SATOYAMA EXPERIENCEも世界放浪がなければ、なかったのではないでしょうか。
以下、公式HPからの経営理念
株式会社美ら地球は、社会交流人口を増やす事業を通じて、世界中の人々が訪れたくなり、住みたくなるようなクールな田舎を創ります。
そして、日本の田舎に残された伝統文化や風景、自然を守り、その素晴らしさを地元の人々、訪れる人々と共有することにより、里山の継承、美ら地球の持続に貢献します。
2.構想から成功するまで
会社設立の背景や飛騨古川への移住、田舎暮らしあるある、どんな価値を提供してどんな苦労があったのか、仕事からプライベートまで濃密な時間が流れていることがわかります。逆によく200ページにまとめたな、と別のところでも関心してしまいました。
起業や事業経営の話だとプライベートの部分にあまりふれない本も多いですが、この本では1つの人生を記してあります。今後起業を考えている人、人脈などのツテがない土地でチャレンジしてみたい人は自分の事に置き換えて読み進めることで様々な可能性や課題が想像できるのではないでしょうか。
3.成功している人は成功するまで続けているだけ
今輝かしい実績を挙げている人は、成功している姿ばかりが目に入るが実際は、色々試行錯誤しながら苦労しているもの。美ら地球の立ち上げから現在まで10年間ずっと順風満帆だったわけではなくあらゆるところで課題を乗り越えている様子も記されています。
金持ちになる本や経営の本を「儲かるカラクリやとっておきの秘訣があるのでは!?」と期待しながら読み漁ってみても、みんな目の前の課題を愚直に解決しているだけ。ダメなら再考して挑戦して…ひたすらPDCAを繰り返しているんですね。繰り返しているうちに成功してた、みたいな。
この画像もよくインターネット上で見かけますが、成功する前に止めてしまう人が多いから、成功するまで続けている人が光るんでしょうね。
4.タダの景色はタダじゃない。感謝の気持ちを忘れない事
「タダの景色でお金を稼ごう」という項目がありますが、本当はタダではないことにも触れています。地元の人達がずっと守ってきた景色。こういう地域の宝は一朝一夕では完成しない。何日も何年も紡がれてきた生活が日常という姿になって生活に馴染んでくる。時間をかけて出来上がった価値は決して「タダ」という一言では表せません。
「日常」は住んでいる人にとっては当たり前だが、訪れた人にとっては新鮮なもの。フランス人にとっては見慣れたパリの街並みも私達日本人にとっては素敵な景色として映る。所変われば、国が変われば、同じものでも価値が変わるということです。
私も栗山地域に移住してきたばかりの頃は、サンショウウオ!?現役のハンター!?標高2000m!?と驚きの連続でしたが、移住して間もなく4年経った今では、みんな生活の一部のように感じることができます。
5.外国人旅行者に向き合う
自分では向きあっているつもりでも具体的に必要な要素、準備、心構えなどを指摘されると「なるほどな」と感じることが多々ありました。
KGTのツアーやKGT設立以前から携わっていた栗山ツアーで外国人が参加してくれる、という事もありましたが、やはり外国人とちゃんと向き合って…この場合の向き合うというのは、どの国の人に、栗山の何を、どういった方法(商品)で楽しんでもらうのかを考えるとともに、ターゲットの傾向をより深く分析する、ということです。
6.できない理由を挙げるのは簡単
人がいないから~、そういう土地柄だから~、体制が整っていないから~、資金がないから~、などなどできない理由を挙げればキリがありません。じゃあ全て揃ってから動きだそう、では遅すぎるしそもそもなんでも揃っている状態で物事や事業を始められる方がめずらしいと思いませんか?
美ら地球に限らず、今成功している所は足りない物を自分達の手で補いながら事業を続けているように思います。特に人材不足というのは、地方ではどこでも深刻な問題で、栗山も例外ではありません。「じゃあできないね」で終わってたら何も変わらないし、やらないリスク、やらない事で失われる機会も考える必要があります。まあ、恐れずにどんどん進め、と私自身にも言い聞かせているわけでもあります、はい。
7.まとめ
2015年、全国市町村国際文化研修所で開催された「海外へ売り込め!地域資源を活用した国際観光戦略」で山田拓氏の話を聞き、4年近くが経ちました。あの時講師として来ていた、観光カリスマの山田桂一郎氏、山田拓氏に「同じ舞台に上がるので、それまで待っていて下さい。一緒に日本を盛り上げましょう」と生意気な言葉を言ったのをふと思い出しました。
飛騨古川がSATOYAMA(里山)なら栗山地域はHIKYO(秘境)だな、と外国人向けモニターツアーの名前を「HIKYO EXPERIENCE」にしてみたり。一方的にどこか追いかけているところもあり、読了後に胸が熱くなるような1冊でした。
日常は当たり前だけど特別な事を忘れずに過ごしていきたいと思います。